取り上げるための話ではありません。
運転を続けるために、正しく知っておきましょう。
日本精神神経学会は、病名で運転を制限する法律に反対の立場をとってきました。その根拠のひとつが、「特定の疾患を持つ人が一般の人より事故を起こしやすいというデータはない」という点です(学会は、警察庁の資料でも精神疾患を原因とした事故の率は著しく低い、と述べています)。負い目に感じる必要はありません。
道路交通法では、次のような病気が挙げられています。統合失調症、そううつ病(そう病・うつ病を含む)、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、認知症、アルコールなどの中毒です。
ただし条文をよく読むと、たとえば統合失調症は「安全な運転に必要な認知・予測・判断・操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈しないものを除く」と書かれています。とても分かりにくい言い回しですが、意味はこうです。
病名がついた人全員が対象なのではなく、「その症状が出ている状態の人」だけが対象——これを相対的欠格といいます。学会のガイドラインも「挙げられた病気の人すべてを指すものではありません」と説明しています。
上の病気が「症状しだい」であるのに対し、認知症は診断そのものが免許の取消し等の対象とされています。詳しくは下の「認知症と運転」をご覧ください。
免許の取得・更新のときに渡される質問票は、次の5つです。実際の様式に沿って挙げます。
学会のガイドラインは、この質問について「あくまで、現在でも有効な助言の有無を尋ねています」と説明しています。つまり、調子が悪かった時期に言われたことがあっても、いまその症状がなければ該当しません。迷ったら、次の診察で主治医に確認してください。
質問票の注意書きに、こう書かれています。「各質問に対して『はい』と回答しても、直ちに運転免許を拒否若しくは保留され、又は既に受けている運転免許を取り消され若しくは停止されることはありません」。
実際には、まず病状の聞き取りが行われ、判断が必要とされたときに主治医の診断書の提出を求められるか、公安委員会が指定する医師による臨時適性検査が行われます。
なお、質問票に事実と違う記載をした場合には罰則(1年以下の懲役または30万円以下の罰金)が定められています。「病気であることを申告しなければ罰せられる」という規定ではなく、虚偽の記載をしたときの規定です。
学会のガイドラインは、主治医に対して「運転の制限が社会生活や職業上の支障、ときに通院の困難をもたらすことを意識し、不必要に行わないよう留意しなければならない」と求めています。全部か無かではなく、危険が下がるなら部分的な制限を勧めるという考え方です。
ガイドラインが挙げている工夫は、次の8つです。
どれが向いているかは状態によって違います。診察で「運転しています」と伝えていただければ、一緒に決められます。
工夫をしても危険が減らないと判断される場合、医師は運転の中止をはっきりお伝えします。つらい話ですが、それはあなたと道を歩く人を守るためです。そのときも、状態が良くなれば運転を再開できる可能性があります。
睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬・抗てんかん薬などの多くに、「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」といった記載があります。
ここで知っておいてほしいのは、この記載が向精神薬だけのものではないことです。学会のガイドラインによれば、抗アレルギー薬・抗不整脈薬・降圧薬・頭痛薬・排尿改善薬など、薬理作用を問わず多くの治療薬に同じような記載があります。
そのうえでガイドラインは、「処方を受けた者全員に運転を禁じなければならないほどの医学的根拠はない」「実際にこれらの薬物の投与を受けている者が運転に従事しており、実態にもそぐわない」と述べています。
お薬の開始時・増量時には数日間は運転を控え、眠気の様子をみながら再開する——これが現実的な対応とされています。次のような時期はとくに注意してください。
「仕事で毎日運転します」「子どもの送迎があります」——これを伝えていただくと、眠気の出にくいお薬を選ぶ、飲む時間を変えるなどの調整ができます。黙ってやめてしまうより、ずっと良い結果になります。
あてはまる項目があれば、そのまま記入します。
「はい」があった場合、まず個別に話を聞かれます。ここで終わることもあります。
判断が必要とされた場合、主治医の診断書を求められるか、指定医による検査が行われます。
継続、一定期間後の再判定、保留・停止などの結論になります。
一定の症状を呈する病気を理由に取消しの処分を受けた場合でも、その日から1年を経過し、運転に支障のある症状がないほど回復したときには、再取得の手続きができます。
さらに、取消し後3年以内で一定の条件(取消し前に提出した質問票に虚偽の記載がないことなど)を満たす場合は、実技試験と学科試験が免除されます。正直に書いておくことは、ここでも自分を守ります。
医師が公安委員会に届け出ることができる制度があります(任意の制度です)。この話を聞くと不安になるかもしれませんが、学会のガイドラインが示している目安は、かなり限られた場面です。
ガイドラインは、次の4つをすべて満たすような場合に届出を考慮すべきとしています。
つまり、診察で正直に話したから届け出られる、というものではありません。医師がまず考えるのは、あなたが安全に運転を続けられるように治療とお薬を調整することです。運転の話を避けないでください。
自動車運転死傷行為処罰法という法律があります。ただしこれは、次の3つがすべて満たされたときに適用されるものです。
ここでいう「正常な運転が困難な状態」とは、法務省の説明では急性の精神病状態にある場合とされています。うつ病でいえば、急性期で顕著な精神運動制止がみられ判断に重大な障害があるような、きわめて限られた状態です。
病気があるというだけで、事故を起こした人全員がこの罪に問われるわけではありません。
これまで説明してきた病気が「症状しだい」で判断されるのに対し、認知症は診断がついた時点で、運転を続けることができません。ご本人に「まだ運転できる」という感覚が残っていても、判断や反応は影響を受けています。
75歳以上の方は、免許更新時に認知機能検査を受けます。ここで心配のある結果が出ると、医師の診断を求められる流れになります。
正面から「危ないからやめて」と言うと、多くの場合こじれます。運転をやめることは、その方にとって役割と自由を手放すことだからです。
免許を返納すると、多くの自治体で運転経歴証明書が交付され、バスやタクシーの割引などの支援を受けられる場合があります(内容は地域により異なります)。
いちばん大切なのは、運転をやめたあとに閉じこもらないことです。外出が減ると、気分も体力も落ちていきます。送迎や移動サービスを組み合わせて、これまでの外出をできるだけ続けられるようにしてあげてください。
認知症の介護ガイドもあわせてご覧ください。
「運転しています」の一言から始めてください。学会のガイドラインも、患者さんとご家族が運転に伴う危険について率直に話し合うことが最も重要だとしています。お薬の調整、控えたほうがよい時期、部分的な工夫を一緒に考えられます。
各都道府県警察の窓口です。病気や加齢による運転の不安について、ご本人もご家族も相談できます。短縮ダイヤル「#8080(シャープ・ハレバレ)」で、お住まいの地域の窓口につながります。
※ 受付時間は地域によって異なります。手続きの詳細は、お住まいの都道府県警察・運転免許センターの案内をご確認ください。
判断されるのは病名ではなく、いまの症状です。
通院しているだけで免許はなくなりません。
いちばん避けたいのは、
免許のために、黙って薬をやめてしまうこと。
それは治療にとっても、交通安全にとっても損です。
運転のことは、隠さずに診察で話してください。
安全に運転を続ける方法を、一緒に探します。