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こころの病気・お薬と
運転免許

取り上げるための話ではありません。
運転を続けるために、正しく知っておきましょう。

よくある3つの誤解を、
先に解いておきます

誤解1「精神科に通院すると、免許を取り消される」
通院していることや診断名だけで決まるものではありません。日本精神神経学会のガイドラインは、「運転能力の低下は具体的な健康状態によって判断されるべきであり、診断名・病名によって一律に判断されてはならない」とはっきり述べています。判断されるのはいまの症状が安全な運転に支障をきたすかどうかです。
誤解2「正直に申告すると不利になるから、黙っておこう」
質問票に「はい」と答えても、それだけで免許が取り消されることはありません(質問票の注意書きにも明記されています)。まず個別に話を聞かれ、必要な場合に主治医の診断書などで判断される流れです。むしろ黙っていると、体調が悪化したときに誰も気づけません。
誤解3「薬を飲むと運転できないから、免許のために薬をやめよう」
これがいちばん危険です。学会のガイドラインも、運転の制限が行きすぎると「症状の過少申告や治療中断」を招き、それは患者さん自身にとっても交通安全の面でも不利益になると警告しています。眠気が心配なら、やめるのではなく「運転をするので調整したい」と主治医に伝えてください。
🕊️ 知っておいてほしいこと

日本精神神経学会は、病名で運転を制限する法律に反対の立場をとってきました。その根拠のひとつが、「特定の疾患を持つ人が一般の人より事故を起こしやすいというデータはない」という点です(学会は、警察庁の資料でも精神疾患を原因とした事故の率は著しく低い、と述べています)。負い目に感じる必要はありません。

このページは、日本精神神経学会「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」と道路交通法をもとにした一般的な説明です。運転の可否を最終的に判断するのは公安委員会(運転免許センター)で、ここで「あなたは運転できます/できません」と決めることはできません。個別のことは主治医にご相談ください。

「一定の病気等」とは
どういう意味か

📋 病名ではなく「症状」で決まります

道路交通法では、次のような病気が挙げられています。統合失調症、そううつ病(そう病・うつ病を含む)、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、認知症、アルコールなどの中毒です。

ただし条文をよく読むと、たとえば統合失調症は「安全な運転に必要な認知・予測・判断・操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈しないものを除く」と書かれています。とても分かりにくい言い回しですが、意味はこうです。

病名がついた人全員が対象なのではなく、「その症状が出ている状態の人」だけが対象——これを相対的欠格といいます。学会のガイドラインも「挙げられた病気の人すべてを指すものではありません」と説明しています。

🧓 認知症だけは、扱いが異なります

上の病気が「症状しだい」であるのに対し、認知症は診断そのものが免許の取消し等の対象とされています。詳しくは下の「認知症と運転」をご覧ください。

更新のときに聞かれること

免許の取得・更新のときに渡される質問票は、次の5つです。実際の様式に沿って挙げます。

  1. 過去5年以内に、病気(治療に伴う症状を含む)を原因として、または原因は明らかでないが、意識を失ったことがある
  2. 過去5年以内に、病気を原因として、体の全部または一部が一時的に思い通りに動かせなくなったことがある
  3. 過去5年以内に、十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、日中の活動中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある
  4. 過去1年以内に、飲酒を繰り返して絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある/医師から飲酒をやめるよう助言を受けているのに飲酒したことが3回以上ある
  5. 病気を理由として、医師から運転免許の取得または運転を控えるよう助言を受けている
💡 5番でよくある迷い:「昔、控えるように言われた」

学会のガイドラインは、この質問について「あくまで、現在でも有効な助言の有無を尋ねています」と説明しています。つまり、調子が悪かった時期に言われたことがあっても、いまその症状がなければ該当しません。迷ったら、次の診察で主治医に確認してください。

✅ 「はい」に印をつけたら、どうなりますか

質問票の注意書きに、こう書かれています。「各質問に対して『はい』と回答しても、直ちに運転免許を拒否若しくは保留され、又は既に受けている運転免許を取り消され若しくは停止されることはありません」。

実際には、まず病状の聞き取りが行われ、判断が必要とされたときに主治医の診断書の提出を求められるか、公安委員会が指定する医師による臨時適性検査が行われます。

なお、質問票に事実と違う記載をした場合には罰則(1年以下の懲役または30万円以下の罰金)が定められています。「病気であることを申告しなければ罰せられる」という規定ではなく、虚偽の記載をしたときの規定です。

「やめる」の前に、
できる工夫があります

学会のガイドラインは、主治医に対して「運転の制限が社会生活や職業上の支障、ときに通院の困難をもたらすことを意識し、不必要に行わないよう留意しなければならない」と求めています。全部か無かではなく、危険が下がるなら部分的な制限を勧めるという考え方です。

ガイドラインが挙げている工夫は、次の8つです。

  • 運転する時間を短くする
  • 運転する頻度を減らす
  • 混雑する時間帯を避ける
  • 夜間は運転しない
  • 悪天候のときは運転しない
  • 高速道路は運転しない
  • 慣れ親しんだ自宅近辺だけにする
  • 家族が同乗するときだけ運転する

どれが向いているかは状態によって違います。診察で「運転しています」と伝えていただければ、一緒に決められます。

🛑 それでも危険が下がらないときは

工夫をしても危険が減らないと判断される場合、医師は運転の中止をはっきりお伝えします。つらい話ですが、それはあなたと道を歩く人を守るためです。そのときも、状態が良くなれば運転を再開できる可能性があります。

お薬を飲みながら
運転してよいのか

📄 説明書の「運転しないでください」について

睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬・抗てんかん薬などの多くに、「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」といった記載があります。

ここで知っておいてほしいのは、この記載が向精神薬だけのものではないことです。学会のガイドラインによれば、抗アレルギー薬・抗不整脈薬・降圧薬・頭痛薬・排尿改善薬など、薬理作用を問わず多くの治療薬に同じような記載があります。

そのうえでガイドラインは、「処方を受けた者全員に運転を禁じなければならないほどの医学的根拠はない」「実際にこれらの薬物の投与を受けている者が運転に従事しており、実態にもそぐわない」と述べています。

⚠️ 現実的な対応(ガイドラインが勧めている方法)

お薬の開始時・増量時には数日間は運転を控え、眠気の様子をみながら再開する——これが現実的な対応とされています。次のような時期はとくに注意してください。

  • 飲みはじめ・量を増やしたとき、種類が変わったとき
  • 睡眠薬を飲んだ翌朝(成分が残っていることがあります)
  • お酒を飲んだとき(絶対に運転しないでください)
  • 体調が悪いとき、睡眠不足のとき
🌱 診察でこう伝えてください

仕事で毎日運転します」「子どもの送迎があります」——これを伝えていただくと、眠気の出にくいお薬を選ぶ、飲む時間を変えるなどの調整ができます。黙ってやめてしまうより、ずっと良い結果になります。

診断書を求められたときの流れ

1
質問票に事実を記入する

あてはまる項目があれば、そのまま記入します。

2
病状の聞き取りが行われる

「はい」があった場合、まず個別に話を聞かれます。ここで終わることもあります。

3
診断書または臨時適性検査

判断が必要とされた場合、主治医の診断書を求められるか、指定医による検査が行われます。

4
公安委員会が判断する

継続、一定期間後の再判定、保留・停止などの結論になります。

🔄 もし取り消しになっても、終わりではありません

一定の症状を呈する病気を理由に取消しの処分を受けた場合でも、その日から1年を経過し、運転に支障のある症状がないほど回復したときには、再取得の手続きができます。

さらに、取消し後3年以内で一定の条件(取消し前に提出した質問票に虚偽の記載がないことなど)を満たす場合は、実技試験と学科試験が免除されます。正直に書いておくことは、ここでも自分を守ります。

「医師に通報されるのでは」
という不安について

医師が公安委員会に届け出ることができる制度があります(任意の制度です)。この話を聞くと不安になるかもしれませんが、学会のガイドラインが示している目安は、かなり限られた場面です。

ガイドラインは、次の4つをすべて満たすような場合に届出を考慮すべきとしています。

  • 過去に同じような状態で重大な事故を起こした、接触事故や信号無視を繰り返したなど、運転の継続が明らかに不適切と考えられる
  • 医師からの運転中止の勧告に従わない
  • 調子が悪いときでも運転を自粛する判断ができない
  • 家族など周りの工夫によっても運転を中止させることができない

つまり、診察で正直に話したから届け出られる、というものではありません。医師がまず考えるのは、あなたが安全に運転を続けられるように治療とお薬を調整することです。運転の話を避けないでください。

「病気だと重い罪になる」と
聞いて不安な方へ

自動車運転死傷行為処罰法という法律があります。ただしこれは、次の3つがすべて満たされたときに適用されるものです。

  1. 病気のために正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で
  2. そのことを自分でも分かっていながら運転し
  3. 病気の症状のために正常な運転が困難になり、人を死傷させた

ここでいう「正常な運転が困難な状態」とは、法務省の説明では急性の精神病状態にある場合とされています。うつ病でいえば、急性期で顕著な精神運動制止がみられ判断に重大な障害があるような、きわめて限られた状態です。

病気があるというだけで、事故を起こした人全員がこの罪に問われるわけではありません。

認知症と運転

📌 ここは、ぼかさずにお伝えします

これまで説明してきた病気が「症状しだい」で判断されるのに対し、認知症は診断がついた時点で、運転を続けることができません。ご本人に「まだ運転できる」という感覚が残っていても、判断や反応は影響を受けています。

75歳以上の方は、免許更新時に認知機能検査を受けます。ここで心配のある結果が出ると、医師の診断を求められる流れになります。

💬 「まだ運転できる」と言われたとき

正面から「危ないからやめて」と言うと、多くの場合こじれます。運転をやめることは、その方にとって役割と自由を手放すことだからです。

  • 能力を責める言い方(「もう無理でしょう」)は避ける
  • 「心配している」と、気持ちを主語にして伝える
  • 主治医や免許センターの判断など、家族以外の理由を使う(家族間の対立になりにくい)
  • 車がなくても困らない準備(送迎・宅配・移動サービス)を先に整えてから話す
  • 一度で決めようとせず、回数を分ける

🚙 運転をやめたあとの暮らし

免許を返納すると、多くの自治体で運転経歴証明書が交付され、バスやタクシーの割引などの支援を受けられる場合があります(内容は地域により異なります)。

いちばん大切なのは、運転をやめたあとに閉じこもらないことです。外出が減ると、気分も体力も落ちていきます。送迎や移動サービスを組み合わせて、これまでの外出をできるだけ続けられるようにしてあげてください。

認知症の介護ガイドもあわせてご覧ください。

運転と免許のQ&A

Q復職したら、会社に運転業務から外れるよう言われました
免許が有効であれば、道路交通法の規定と会社の業務内容が直接結びつくわけではありません。ただし会社が、産業医面接などから健康状態や運転適性を判断して、職務上の配慮や制限を加えることはあります。主治医に、可能な範囲で病状の説明をしてもらうとよいでしょう。休職・復職ガイドに、職場への伝え方の準備があります。
Q教習所で「相談窓口へ行くように」と言われました。免許は取れないのですか?
病名だけで取得できないと決まるわけではありません。統合失調症やそううつ病は相対的欠格で、「安全な運転に必要な能力を欠くおそれのある症状を呈している」状態の方が対象です。どのような症状・状態が該当するかは人によって違うので、免許センターの安全運転相談窓口と主治医の双方に相談してください。
Q通院していることは、職場や家族に知られますか?
免許の手続きで勤務先に連絡がいくことはありません。診断書の内容も、公安委員会が判断のために使うものです。なお、運転の危険が明らかな場合に医師がご家族に危険を伝えることは、守秘義務違反にはあたらないとされています。
Q事故を起こしたら、保険は下りますか?
病気や服薬があること自体で保険が使えなくなるわけではありませんが、契約内容によって扱いは異なります。加入している保険会社にご確認ください。
Q家族の運転が心配ですが、本人が聞き入れません
ご家族だけで抱えないでください。診察に同行して医師に伝える、安全運転相談窓口に相談する、といった方法があります。第三者からの説明のほうが受け入れられることが多いです。上の「認知症と運転」の伝え方も参考にしてください。

どこに相談すればよいか

🩺 まずは主治医へ

「運転しています」の一言から始めてください。学会のガイドラインも、患者さんとご家族が運転に伴う危険について率直に話し合うことが最も重要だとしています。お薬の調整、控えたほうがよい時期、部分的な工夫を一緒に考えられます。

📞 安全運転相談窓口(#8080)

各都道府県警察の窓口です。病気や加齢による運転の不安について、ご本人もご家族も相談できます。短縮ダイヤル「#8080(シャープ・ハレバレ)」で、お住まいの地域の窓口につながります。

※ 受付時間は地域によって異なります。手続きの詳細は、お住まいの都道府県警察・運転免許センターの案内をご確認ください。

🚗 このページで伝えたかったこと

判断されるのは病名ではなく、いまの症状です。
通院しているだけで免許はなくなりません。

いちばん避けたいのは、
免許のために、黙って薬をやめてしまうこと
それは治療にとっても、交通安全にとっても損です。

運転のことは、隠さずに診察で話してください。
安全に運転を続ける方法を、一緒に探します。

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📚 参考: 日本精神神経学会「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」(2014年6月)、道路交通法および同施行令、警察庁「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」、法務省「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A」。制度は改正されることがあります。手続きの詳細は、お住まいの都道府県警察・運転免許センターの最新の案内をご確認ください。