〜 怖いものに、少しずつ慣れていく 〜
避けてきたものに、計画を立てて、少しずつ近づいていく。そして「思っていたようなことは起きなかった」を、頭ではなく体で確かめていく——これが曝露療法です。
名前の響きから「無理やり怖い目にあわせる治療」と思われがちですが、まったく違います。どこから始めるかは、あなたが決めます。いきなり一番こわいところには行きません。
完全に避けてはいないけれど、これがないと行けないというものはありませんか。
頓服薬をポケットに入れておく。出口の近くに座る。誰かについてきてもらう。心の中で数を数える。何度も確認する。——これらは安全行動と呼ばれます。
安全行動があると、「大丈夫だったのは、お守りのおかげだ」と脳が学んでしまいます。だから何度その場に行っても、こわさが減りません。治療では、これを少しずつ外していくことも扱います。
曝露療法は、不安症の領域で最も効果が確かめられている治療法です。「避けているものがはっきりしている」ほど、力を発揮します。
避けている場面や状況を、階段にして扱います。
専門的な形での曝露が使われます。
曝露療法には、やり方を間違えると逆効果になるという特徴があります。
段の高さと進め方を一緒に決めるのが、この治療のいちばん大事なところです。必ず相談しながら進めましょう。
進め方には決まった順番があります。階段を一段ずつ上がるイメージです。
行けない場所、できないこと、持ち歩いているお守り。「これは大したことない」と思うものも含めて、思いつくかぎり書き出します。
書き出してみると、自分が思っていたより多くのことを避けていたと気づく方がほとんどです。生活が少しずつ狭まっていたことが、ここで見えます。
書き出したものに、0点(まったく平気)〜100点(考えるだけで無理)で点数をつけ、低い順に並べます。これが「不安階層表」です。
大事なのは、20〜40点くらいの段から始めること。「ちょっとドキドキするけど、やれそう」——それがちょうどいい高さです。
実際にやってみて、不安が下がってくるまでその場にとどまります。ここが治療の本体です。
不安は、逃げなければ必ず下がります。永遠に上がり続けることは、体のしくみとしてありえません。多くの場合、20〜40分ほどで山を越えます。この「下がってくる」を実際に体験することが、何よりの学習になります。
同じ場面に、お守りなしで行ってみます。頓服を持たずに。出口から離れた席に。ひとりで。
これで初めて、「自分が大丈夫だったのは、お守りのおかげではなかった」とわかります。ここを飛ばすと、いつまでも自信が育ちません。
やる前に「何が起きると思うか」を書いておき、やったあとに「実際に何が起きたか」を書きます。
「倒れると思った → 倒れなかった」「変な人だと思われる → 誰も気にしていなかった」。この差を目で見て確かめることが、いまの曝露療法でいちばん重視されている部分です。慣れるだけでなく、予想が書き換わることが回復につながります。
1回できても、それだけでは「その場所でだけ大丈夫」になりがちです。時間帯を変え、場所を変え、条件を変えてくり返します。
これで「どこでも大丈夫」に育っていきます。そして、一段クリアしたら次の段へ。階段を上がりきる必要はありません。生活に必要なところまで戻れれば十分です。
曝露療法は、不安症・強迫症の治療のなかで最も効果が強く、最も長持ちする方法として、国内外のガイドラインで第一選択に位置づけられています。
強迫症では、曝露反応妨害法(ERP)が薬物療法と同等かそれ以上の効果を示し、治療を終えたあとも効果が続きやすいことが報告されています。パニック症・社交不安症でも同様です。
近年は、「不安が下がるまで慣れる」よりも、「予想と違う結果を体験する」ことのほうが効いているという考え方(抑制学習理論)が主流になり、⑤のステップが重視されるようになりました。
お薬(SSRIなど)と組み合わせることもよくあります。不安が強すぎて階段の一段目にも立てないとき、薬が助けになります。
ただし、頓服の抗不安薬を「曝露の直前に飲む」のはおすすめしません。それ自体が安全行動になり、「薬のおかげで大丈夫だった」という学習になってしまうためです。使い方は相談しながら決めましょう。
曝露のやり方を実際に組み立てるワークと、関連する解説です。