〜 やめどきは病気によって違います。そして、一緒に決められます 〜
数ヶ月でやめられるお薬もあれば、年単位で続けたほうが安全なお薬もあります。まずは、多くの方がつまずくところからお話しします。
「良くなった=もうやめていい」ではありません。
症状が軽くなった時期は、脳の状態がまだ元に戻りきっていない「治りかけ」です。ここで急にやめてしまうと、実はいちばん再発しやすいタイミングになります。
骨折で痛みが消えても、しばらくギプスを外さないのと似ています。痛みが消えたことと、骨がくっついたことは、別のできごとです。
お薬をはじめて、効いてくるのを待つ時期です。抗うつ薬なら2〜4週間、効果がはっきりするまで1〜2ヶ月かかることもあります。ここは「やめる」を考える時期ではありません。
症状はかなり軽くなり、「もう大丈夫かも」と感じはじめる時期です。自己判断での中断がいちばん多いのも、再発がいちばん多いのも、この時期です。ここは同じ量を続けるのが原則です。
安定した状態を保つ時期です。「やめどき」を主治医と検討しはじめられるのは、ここから。どのくらい続けるかは、病名・再発の回数・生活の状況で変わります。
ここから8つの病気について、一般的な目安をお伝えします。あくまで「目安」です。同じ病名でも、重さ・再発の回数・お仕事や家庭の状況によって変わります。
ここでいちばん大事なのは、「飲みはじめてから」ではなく「良くなってから」6ヶ月〜1年だということです。3ヶ月かけて良くなった方なら、合計で9ヶ月〜1年3ヶ月ほど、というイメージになります。
研究でも、良くなった時点でやめた場合と続けた場合では、その後1〜2年の再発率がおよそ2倍以上ちがうことが繰り返し示されています。回復期に続けることには、はっきりした意味があります。
再発をくり返している場合は、もっと長く。2回以上の再発、重いエピソードがあった、ご高齢である——といった場合は、2年以上、あるいはより長期の維持を考えます。「うつになりやすい体質を、薬で下支えする」という発想に切り替わります。
不安のお薬(多くはSSRIなどの抗うつ薬)も、症状が落ち着いてから半年〜1年が目安です。うつ病より、やや長めに続けたほうが安定しやすいとされています。
特にパニック症は、「もう発作が出ないから」と早くやめると、また発作が戻ってきやすいのが特徴です。発作が出ない状態を、しばらく体に覚えさせる時間が必要だと考えてください。
そして大事なのが、薬と一緒に「行動」を変えておくこと。避けていた場所や場面に少しずつ戻れているかどうかで、やめたあとの安定がまるで違います。認知行動療法や曝露(ばくろ)を併せておくと、減薬がぐっとしやすくなります。
強迫症は、他の病気にくらべて薬の量が多めで、期間も長めになりやすい病気です。良くなってからも1〜2年は続け、そこからゆっくり減らしていくのが一般的です。
また、強迫症では薬だけでやめどきを決めないほうがよいのが特徴です。曝露反応妨害法(ERP)——「不安になっても、確認や手洗いをしない練習」——に取り組んでおくと、薬を減らしたあとの再発が明らかに減ります。薬は、その練習に取り組める状態を作るための助けでもあります。
ここは正直にお伝えします。双極性障害の気分安定薬は、「治すための薬」ではなく「波を防ぐための薬」です。だから、症状がないときにも飲み続けることに意味があります。
今、調子がいいのは、薬が効いているからです。「もう波が来ないから、いらないのでは」と感じたら、それはむしろ薬がうまく働いているサインです。自己判断で中断すると、数ヶ月以内に再発する確率がかなり高くなることがわかっています。
ただし「一生、今のままの量」という意味ではありません。量を調整したり、より飲みやすい薬に変えたりはできます。妊娠を考えている、副作用がつらい、そういうときは必ず事前にご相談ください。時間をかけて準備すれば、選べる方法があります。
はじめての発症でも、症状が落ち着いてから最低1〜2年は続けます。再発をくり返している場合は、5年以上、あるいは長期の維持が勧められます。
この病気で特に大切なのは、再発をできるだけ起こさないことです。再発するたびに回復に時間がかかり、元の状態まで戻りにくくなることがあります。「調子がいいから」でやめてしまうのが、いちばん避けたいパターンです。
毎日の服薬が負担な方には、月に1回などの注射(持効性注射剤)という選択肢もあります。飲み忘れの心配がなくなり、生活がぐっと楽になる方もいます。
ADHDのお薬は、他と少し考え方が違います。「病気を治すため」ではなく「今の生活を回すため」の薬です。だから、「何年で終わり」という決まった期間がありません。
逆にいうと、環境が整えば減らす・やめるを検討できます。転職して自分に合う仕事になった、生活の仕組み(リマインダー・書き出し・締め切りの立て方)が身についた、進学や卒業で状況が変わった——そういうときが見直しどきです。
当院では、少なくとも年に1回は「今も必要か」を一緒に確認します。長期休暇に一度お休みしてみて、どのくらい困るかを確かめる方法もあります。ただし急にやめると気分の落ち込みや強い眠気が出ることがあるので、必ず相談のうえで。
睡眠薬は、本来「短期で使う薬」です。眠れない時期を越えるために使い、眠りが戻ってきたら減らしていく——これが基本の形です。
ただ、実際には何年も続いている方が少なくありません。それは意志が弱いからではなく、やめるときに一時的に眠れなくなる(反跳性不眠)ため、やめられなくなるという薬の性質によるものです。特にベンゾジアゼピン系は、この傾向がはっきりしています。
長く続いている場合は、①時間をかけてゆっくり減らす ②眠りのクセを整える治療(不眠の認知行動療法・CBT-I)に置き換える ③依存性の少ない薬に切り替える——という道すじで進めます。あせらず、月単位で考えてください。
適応障害は、つらい状況があって、それに反応して心が参っている状態です。ですから治療の主役は薬ではなく、環境を変えること・距離を取ることになります。
薬は「その時期を越えるための一時的な支え」です。眠れない、不安が強くて動けない——そういうときに使い、状況が動いて眠れて食べられるようになったら、減らす方向に向かいます。数ヶ月単位でやめられることも多い病気です。
ただし、状況が変わらないまま薬だけ減らすのは、うまくいきません。環境が変えられないときは、薬を続けながら、休職や配置換え、距離の取り方を一緒に考えます。
ここに書いたのは病名ごとの一般的な目安です。でも実際には、同じ薬が違う目的で出ていることがよくあります。
たとえば、抗精神病薬が少量、気分の波や不安を抑える目的で出ていることがあります。抗うつ薬が痛みや過敏性腸症候群のために出ていることもあります。
あなたの薬が「何のために」出ているかは、診断名だけでは決まりません。診察で遠慮なく聞いてください。「この薬は、何のために飲んでいますか?」は、いつ聞いてもいい質問です。
「やめる」と決めてからが、実はもうひとつの治療です。ここでつまずかないための4つのポイントをお伝えします。
ほとんどの薬は、数週間〜数ヶ月かけて段階的に減らします。1段階減らしたら、数週間そのままで様子を見る。急がないことが、結局いちばんの近道です。
転職・異動・受験・引っ越し・繁忙期——生活が大きく動く時期は避けます。「特に何もない、落ち着いた数ヶ月」が減薬に向いています。
複数のお薬を飲んでいる場合、同時にいくつも減らすと、何が起きているのか分からなくなります。ふつうは1種類ずつ、優先順位をつけて減らします。
減らしてみて調子が崩れたら、元の量に戻します。それは失敗ではなく、「今はまだその時期ではなかった」という大事な情報です。半年後にまた試せます。
減らしたあとの不調は、この2つのどちらかであることがほとんどです。見分けがつくと、あわてずにすみます。
| 離脱症状(中断症状) | 再発 | |
|---|---|---|
| 出はじめる時期 | 減らして数日以内と早い | 数週間〜数ヶ月かけてじわじわ |
| どんな感じか | めまい、ふらつき、頭がシャンとしない、電気が走るような感覚、吐き気、いつもと違う体の感覚 | 元の症状が戻る。気分の落ち込み、興味がわかない、不安、眠れない |
| 経過 | 数日〜数週間で軽くなっていく | 放っておくと、だんだん重くなる |
| 元の量に戻すと | 1〜2日ですっと治まる | 良くなるまでに数週間かかる |
次のお薬は、自己判断で急に中止すると、体にはっきりした反応が出ます。減らすときは必ずご相談ください。
なお、飲めていないことを責めることはありません。「実はもう2週間飲んでいません」も、そのまま教えてください。そこから安全な立て直し方を一緒に考えられます。黙っていることのほうが、ずっと危ないのです。
「薬を減らしたい」と言うのは、わがままでも、治療への文句でもありません。むしろ治療のいちばん大事な相談ごとです。どうぞ言ってください。
言い出しにくいときは、こういう聞き方があります。そのまま使ってかまいません。