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ペアレントトレーニング

〜 子どもではなく、関わり方のほうを変える 〜

ペアトレとは、何をするものか

🔧 子どもを直す訓練ではありません

ペアレントトレーニング(略してペアトレ)は、子どもの行動が変わりやすくなるように、大人の側の関わり方を練習するプログラムです。行動科学の考え方をもとに組み立てられていて、決まった回数・決まった順番で進みます。

大事なところなので先に書きます。これは「親の育て方が悪かった」という前提のものではありません。実際、ペアトレを受けにいらっしゃるご家庭は、たいていすでに人一倍の工夫をされています。うまくいかないのは努力の量ではなく、方法がその子の脳の仕組みに合っていないだけであることがほとんどです。

💡 「子どもは変えられないが、環境は変えられる」

子どもに「集中しなさい」と言っても、注意の仕組みは変わりません。けれども、指示の出し方、注目の向け方、部屋の作り、予告のしかた——これらは今日から変えられます。そして、そこが変わると子どもの行動が変わる。ペアトレが扱っているのは、この順番です。

対象

どんなときに使われるか

ADHDのあるお子さん、かんしゃく・反抗が強いお子さん、発達特性のあるお子さんの子育てが中心です。診断がなくても受けられる形(自治体の子育て支援など)もあります。年齢は2〜3歳から小学生までが主な対象で、低年齢ほど効果が出やすいことがわかっています。

研究で、どこまで確かめられているか

ペアトレは、子どもの心理社会的な支援のなかでも研究の蓄積が多いもののひとつです。ただし「何にでも効く」わけではないので、効くところと効きにくいところを分けて書きます。

📘 ガイドラインでの位置づけ

確立英国のNICEガイドラインでは、就学前のお子さんのADHDに対して、まず薬ではなく親への支援プログラムを行うことが第一選択として推奨されています。学齢期でも、親への支援は標準的な支援の一部として位置づけられています。

日本のADHD診療のガイドラインでも、環境調整と心理社会的な支援を先に、あるいはお薬と並行して行うという考え方が共通しています。ペアトレは、その中心的な方法として挙げられています。

日本では、厚生労働省の事業として実践のためのガイドブックが作られ、プログラムに共通して含めるべき要素が整理されています。自治体や発達支援センターで行われているものは、おおむねこの枠組みに沿っています。

📗 効果が確かめられていること

強めかんしゃく・反抗・指示に従わないといった行動が減ることは、複数の研究のまとめで一貫して示されています。効果の大きさは中程度です。

強め親の側の変化——叱る回数が減る、ほめ方が具体的になる、子育てへの自信が上がる——も、はっきりと示されています。

中程度親のストレスや抑うつの軽減。これは見落とされがちですが、実際にはとても大きな意味があります。親が消耗している家庭では、どんな方法も続かないからです。

中程度親子関係そのものの改善。「一緒にいて楽しい時間が戻った」という変化が報告されます。

📙 効きにくい・はっきりしないこと

限定的ADHDの中核症状、とくに不注意そのもの。ここは正直にお伝えします。第三者が評価する研究デザインにすると、不注意や多動そのものへの効果は小さくなります。不注意に直接効くのは、いまのところお薬のほうです。

限定的学校での行動への波及。家庭で身についた関わり方は、自動的には学校に広がりません。学校側にも別に働きかけが必要です。

限定的学業成績への直接の効果。宿題に取りかかりやすくなるといった変化はありますが、成績そのものが上がるかどうかは、はっきりしていません。

要注意思春期以降。年齢が上がるほど効果は小さくなります。中学生以降では、ペアトレそのものより交渉や一緒に問題を解く形のアプローチに切り替えるのが一般的です。

⚖️ 「親の評価」と「第三者の評価」の差について

研究を読むときに知っておくと役立つ点です。ペアトレの効果は、親が評価すると大きく、第三者が評価すると小さくなる傾向があります。

これは効果が嘘だという意味ではありません。親の見方が変わること自体が、家庭の空気を変えるからです。同じ行動でも「またやった」と見るか「今日は3回で済んだ」と見るかで、返ってくる対応が変わります。ただ、不注意そのものが減ったわけではないという点は、正確に持っておいてください。

📚 主な根拠(概要)

  • NICE ガイドライン(英国国立医療技術評価機構)ADHDの診断と管理 — 就学前児では親への支援プログラムを第一選択として推奨
  • コクラン・レビュー — 行動的な親支援プログラムによる子どもの行動改善・親のストレス軽減についての系統的レビュー
  • 欧州ADHDガイドライングループによるメタ解析 — 評価者を盲検化すると、素行の問題への効果は保たれるが中核症状への効果は縮小することを報告
  • 日本:注意欠如・多動症(ADHD)の診断・治療ガイドライン、および厚生労働省事業によるペアレント・トレーニング実践ガイドブック

※ 一般の方向けに要約しています。プログラムの種類や対象年齢によって結果に幅があります。くわしくお知りになりたい場合は診察でお尋ねください。

実際に、何を練習するのか

プログラムによって順番は違いますが、柱になる要素はおおむね共通しています。ここでは代表的なものを、行われる順に並べます。

よくある形

「何回言ったらわかるの! 早く片づけなさい!」

(離れた場所から、大きな声で、複数の指示)

聞こえてはいても、処理が追いつかないことがあります。そして、叱られているときだけ注目がもらえるという形が続くと、困った行動のほうが強化されていきます。
練習する形

「あと5分で、ごはんにするね」(予告)

そばに行って、目を見て「ブロックを箱に入れて」(ひとつだけ)

やり始めたら「お、始めたね」(その瞬間に)

やることが具体的で、注目ができている瞬間に向いています。最初はぎこちなく感じますが、2〜3週間で自然になります。

引っかかりやすいところ

🍬 「ほめるばかりでは、甘やかしになりませんか」

いちばん多いご質問です。ここでのほめるは、ごほうびを与えることではなく注目をどこに配るかという話です。

叱られるときだけ親がこちらを向く——という状況が続くと、子どもにとっては困った行動が「注目を得る確実な方法」になります。注目の配り先を変えるのは、甘やかしではなく、向きを直す作業です。

📉 「やってみたら、かえって悪くなりました」

これは実際によく起きることで、やり方が間違っているとは限りません。これまで反応が返ってきた行動に反応しなくなると、子どもは一時的にもっと激しくやってみることがあります。

多くは数日から2週間ほどで落ち着きます。この山を知らないまま始めると、いちばん効き始める直前にやめてしまう——これが脱落のいちばん多い理由です。

🙅 「親が責められているように感じます」

ペアトレは、原因を探すためのものではありません。「誰のせいか」ではなく「これからどうするか」だけを扱います。

実際、グループに参加された方が口をそろえておっしゃるのは、「同じ話をしている人がいて安心した」ということです。技術を学ぶ以上に、そこが効いている面もあります。

⏳ 「いつ効果が出ますか」

変化を感じ始めるのはおおむね4〜8週です。1〜2回で結果が出るものではありません。

先に変わるのは、たいてい親の側の疲れ方です。「同じ場面でも、前ほど消耗しなくなった」。そこから子どもの行動が動いてくる、という順序をたどることが多いです。

効きにくいときに、何が起きているか

ペアトレが続かない・効かないときには、たいてい理由があります。やる気や愛情の問題であることは、まずありません。

🔎 先に手当てが必要なこと

  • 親御さん自身が消耗している — うつ状態、不眠、極端な多忙。ここがあると、どんな方法も実行できません。親の治療が先です
  • 親御さん自身にも特性がある — 手順を覚える・一貫して続けることが負担になります。方法を簡略化するか、親御さんの治療を並行します
  • 夫婦で方針がそろっていない — 片方がほめ、片方が叱ると、子どもは混乱します。まず大人同士の合意から
  • 孤立している — 相談相手がいない状態では、宿題形式のプログラムは続きません
  • お子さん側に別の事情がある — 不安症、自閉スペクトラム症、学習の困難、いじめ、睡眠の問題。行動だけを扱っても届きません
  • 年齢が上がっている — 思春期には、指示型から交渉型へ切り替えが必要です
💡 順番を、まちがえないために

診察でよくお伝えするのは、この順番です。①親御さんの体調と睡眠 → ②安全にかかわることの線引き → ③ペアトレの技法 → ④学校との連携

③から始めたくなるのですが、①が崩れているとほぼ続きません。まず親御さんが眠れているかどうか——ここは遠慮なくご相談ください。

💊 お薬との関係

ADHDのお子さんの場合、ペアトレとお薬は、担当している場所が違います。お薬は不注意や衝動性そのものに働き、ペアトレは関わり方と家庭の回り方に働きます。

研究のうえでも、両方を組み合わせると、それぞれ単独より広い範囲に効果が及ぶことが示されています。就学前のお子さんでは、まずペアトレから始めるのが標準です。お薬を使う場合の進め方はコンサータを始めるお子さんと保護者の方へにまとめています。

どこで受けられるか

📍 主な窓口

  • お住まいの自治体の子育て支援・保健センター — 診断がなくても参加できる形が多く、費用も抑えられます
  • 発達障害者支援センター — 各都道府県・政令市に設置されています。プログラムの案内や相談ができます
  • 児童発達支援・放課後等デイサービス — 通っている事業所で、保護者向けのプログラムを行っていることがあります
  • 医療機関 — 児童精神科・小児科で実施しているところがあります
  • 書籍・オンライン — 自分で読んで進める形でも一定の効果が確かめられています。まず入口として使うのもよい方法です

日本では実施しているところが限られ、待機が出ることもあります。地域で受けられる場所については、診察でご一緒に探せます。

🕰 待っているあいだにできること

順番待ちのあいだ、「1日10分のスペシャルタイム」と「できている瞬間に声をかける」の2つだけ先に始めてみてください。この2つは、独立して効果が確かめられている要素です。

全部そろわないと始められない、ということはありません。

よくいただく質問

診断がないと受けられませんか
いいえ。自治体の子育て支援として行われているものは、診断がなくても参加できることがほとんどです。

もともとこの方法は、ADHDに限らずかんしゃくや反抗が強い時期の子育て全般に使えるものとして研究されてきました。「診断はつかないけれど手がかかる」という段階でこそ役に立ちます。
父親も参加したほうがいいですか
できれば、そのほうが効果は出やすくなります。大人の側の対応がそろっていることが、子どもにとっていちばんわかりやすいからです。

ただ、現実には全回の参加が難しいことも多いので、参加した側が家で内容を共有する形でも構いません。大事なのは、方針を話し合って決めておくことです。片方が叱り、片方がほめるという分断だけは避けたいところです。
中学生には、もう遅いでしょうか
「遅い」わけではありませんが、そのままの形では合わなくなります。思春期には、大人が行動を管理する形よりも、本人と交渉して一緒にルールを決める形のほうが機能します。

ペアトレで学ぶ要素のうち、予告する・具体的に言う・できている瞬間に声をかけるは、思春期でもそのまま使えます。一方、無視やタイムアウトは、この年代には向きません。反抗期のページもあわせてご覧ください。
きょうだいへの対応も変えるべきですか
基本的には、家全体で同じやり方にそろえるほうが楽です。片方にだけ特別なやり方をすると、「ずるい」という不満が出やすくなります。

ここで学ぶ関わり方(具体的にほめる、予告する、ひとつずつ言う)は、特性のあるなしにかかわらず有効なので、全員に使って差し支えありません。
叱ってはいけないのでしょうか
いいえ。危険なこと、人を傷つけることは、はっきり止めます。ペアトレが減らそうとしているのは、効果がないのにくり返される叱責——同じことを毎日言い続けて、双方が消耗している状態のほうです。

叱る回数が減ると、たまに叱ったときの重みが戻ります。実は、叱ることの効きめを取り戻す作業でもあります。
やってみましたが、自分が続けられません
よくあることで、失敗ではありません。続かない理由はたいてい「親御さん自身に余力がない」ことにあります。

その場合は、技法を増やすより先に、睡眠・体調・ひとりの時間を確保するほうが近道です。診察では、そこから一緒に立て直します。そして、やることは一度にひとつだけにしてください。7つ全部を同時に始めると、まず続きません。

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