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弁証法的行動療法(DBT)

〜 激しい感情の波と、上手につきあう 〜

DBTってなに?

💡 一言でいうと

DBT(弁証法的行動療法)は、感情の振れ幅がとても大きく、そのつらさが自分を傷つける行動につながってしまう方のために作られた治療法です。

1990年前後にアメリカのマーシャ・リネハンが、「死にたい気持ちが何度も戻ってくる人たち」のために開発しました。もともと認知行動療法を試したところ、「あなたの考え方を変えましょう」という関わりが、かえって「やっぱり私が間違っているのか」と受け取られてしまった——その反省から生まれています。

🌈 「弁証法」って、どういう意味?

むずかしい言葉ですが、意味はシンプルです。一見すると反対に見える2つを、どちらも捨てずに両方持つということです。

「あなたは、いまのままで受けとめられていい」
「そして、変わっていく必要もある」

ふつうは、どちらかしか言われません。受けとめるだけなら苦しさは続きますし、変われとだけ言われれば否定されたように感じます。DBTは、この両方を同時に置くところから始まります。

🧬 なぜ感情の波が大きくなるのか

DBTでは、2つの要素のかけ算で説明します(生物社会理論)。

① 生まれつき、感情を強く感じやすい性質。火がつくのが早く、燃え上がりが大きく、鎮まるのに時間がかかる。これは体質のようなもので、良い悪いではありません。

② 「そんなことで」と扱われ続けた環境。つらいと言っても取り合ってもらえない、大げさだと言われる、逆に大騒ぎのときだけ反応してもらえる。こうした環境では、自分の感情を信じてよいのか、どう扱えばよいのかを学ぶ機会がありません。

この2つが重なると、感情を自分で調節する力が育ちにくくなります。本人の性格が悪いのでも、育てた人が悪いのでもなく、組み合わせの問題だ——これがDBTの立場です。

こんなときに向いています

DBTは、「わかっているのに止められない」タイプの苦しさに向いています。理屈ではわかっている、でも波が来ると持っていかれてしまう——そういうときです。

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こんな困りごとに

感情の波と、そこから起きる行動を扱います。

  • 気分が短時間で激しく変わる
  • リストカット・過量服薬をくり返す
  • 死にたい気持ちが何度も戻ってくる
  • 衝動的に人やものにあたってしまう
  • 見捨てられる不安がとても強い
  • 過食や嘔吐が止められない
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こんな診断のとき

効果が確かめられている領域です。

  • 境界性パーソナリティ症
  • 自傷・自殺関連行動のくり返し
  • 摂食障害(過食・嘔吐を伴うもの)
  • 複雑性PTSD
  • 物質依存を併存しているとき
  • 10代の感情調節の困難
🌿 「あなたが悪い」とは言いません

DBTでいちばん大事にされるのが、ヴァリデーション(そう感じるのは、もっともだと伝えること)です。

「そんなことで怒らないで」ではなく、「その状況なら、そう感じるのは自然です」から始めます。そのうえで「では、そこからどうするか」を一緒に考えます。順番が逆になると、DBTは働きません。

4つのスキルを練習します

DBTの中心はスキルの練習です。性格を変えるのではなく、波が来たときに使える具体的な手を増やしていきます。大きく4つのグループがあります。

① マインドフルネス — 感情に飲まれる前に、気づく

すべての土台になるスキルです。いま自分に何が起きているかに、判断を加えずに気づく練習をします。

「腹が立っている」と気づけた瞬間には、まだ選ぶ余地があります。気づかないまま行動すると、あとで後悔することになります。気づきは、感情と行動のあいだに隙間をつくるためのものです。

② 苦悩耐性 — 危機の瞬間を、悪化させずにやり過ごす

波がピークのとき、話し合いや考え直しは役に立ちません。ここで必要なのは、「事態を悪くせずに、この数十分を越える」手です。

冷たいものを顔に当てる、激しく体を動かす、呼吸をゆっくりにする(TIPPスキル)。ほかのことに注意を向ける、五感を使って自分をなだめる、いま行動したときの結果を先に思い浮かべる——といった具体的な方法を、波が来る前に用意しておきます。

③ 感情調節 — 波の起き方そのものを変えていく

波が来てからではなく、来にくくするための手当てです。

睡眠・食事・体調・薬など、感情が揺れやすくなる土台を整えること。感情に名前をつけて区別できるようにすること。そして、感情が命じてくる行動と、あえて反対のことをしてみる(避けたくなる場面にあえて行く、など)。

④ 対人関係スキル — 頼む・断るを、関係を壊さずに

感情の波は、多くの場合人との間で起きます。だから、人とのやりとり自体を練習します。

自分の希望を伝える。相手の要求を断る。関係を保つことと、自分を大事にすること、両方を成り立たせる言い方を、場面ごとに組み立てていきます。アサーションと重なる部分です。

📋 本来のDBTの形

正式なDBTは、①個人面接 ②スキル訓練グループ ③危機のときの電話コーチング ④治療者チームの相談会という4つを組み合わせ、1年ほどかけて行うプログラムです。

ただし、この完全な形を提供できる施設は日本ではまだ多くありません。当院では、外来の中でスキルの部分を取り出して、少しずつ一緒に練習していく形をとっています。完全版でなくても、スキルは役に立ちます。

効果は確かめられているの?

🔬 研究でわかっていること

DBTは、境界性パーソナリティ症に対して最も研究が積み重ねられている心理療法です。

1991年の最初の研究以降、複数の試験で自傷行為の減少、自殺企図の減少、入院日数の減少、治療から脱落する人の減少が報告されています。2006年の研究では、経験豊富な治療者による通常の治療と比べても、自殺企図がおよそ半分に減ったと報告されました。

また、摂食障害(過食を伴うもの)、物質依存の併存、10代の自傷に対しても効果が確かめられています。

💡 いちばん大事な前提

DBTは、「まず生きていること」を治療のいちばん上に置きます。いのちに関わる行動を減らすことが最優先で、そのあとに治療を続けられるようにすること、そのあとに生活の質を上げること——という順番がはっきり決まっています。

つらいときにどうするかをあらかじめ紙に書いて決めておくことも、その一部です。

よくあるご質問

Q. 「そのままでいい」と「変わる必要がある」は、矛盾していませんか?
A. 矛盾しています。そして、その矛盾を無理に解こうとしないのがDBTです。
あなたはいまできる精いっぱいをやっている。そして同時に、もっと楽になるためにやり方を増やす必要がある。この2つは、どちらも本当です。「精いっぱいやっているのだから変わらなくていい」でも「変われないのは努力不足だ」でもない——その真ん中に立ち続けます。
Q. 自傷をやめろと言われるのがつらいです。
A. DBTは「やめなさい」と命じる治療ではありません。むしろ、自傷がいまのあなたにとって役に立っていることを、まず認めるところから始めます。実際、その瞬間の苦しさは確かに下がるからです。
そのうえで扱うのは、「同じ役目を果たせる、あとで困らない方法」を増やすことです。代わりが育つ前に取り上げれば、苦しくなるだけだとわかっています。順番を守ります。
Q. グループに参加しないといけませんか?
A. いいえ。本来のDBTにはスキル訓練グループがありますが、当院では外来の個人面接の中でスキルを扱います。グループが苦手な方でも取り組めます。
アプリのワークを使って、診察の合間にご自分で練習していただくこともできます。
Q. スキルを覚えても、波が来ると使えません。
A. それがふつうです。波の最中に新しいことは思い出せません。だからDBTでは、波が来ていない穏やかなときに練習し、紙に書いて見えるところに置いておきます。
また、いきなり全部は使えません。まずは1つだけ、確実に使えるものを作るところから始めます。1つ使えた経験があると、次が続きます。

あわせて使えるワーク・ページ

DBTのスキルを実際に練習できるワークと、関連する解説です。

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📚 参考資料