ゆっくり進む病気だからこそ、
今からできる準備と工夫があります
「アルツハイマー型認知症です」と告げられた日は、ご本人もご家族も、頭が真っ白になるかもしれません。このページは、その日の夜に、少し落ち着いてから読んでいただくことを想定してまとめました。
全部を一度に読む必要はありません。気になるところから、必要なときに開いてください。「接し方」や「気をつけたいこと」は、あとから何度でも見返せます。
このページでは、病気の方を「ご本人」と呼びます。ご本人が読んでくださることも、大歓迎です。
脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質がたまることから始まると考えられています。アミロイドβは、もの忘れなどの症状が出る20年ほど前から、静かにたまりはじめます。
その後、神経細胞の中でタウというたんぱく質の変化が起こり、神経細胞が少しずつ減っていきます。
縮み(萎縮)がはじめに目立つのは、海馬という、新しい出来事を記憶としてしまう場所です。そのため、昔のことはよく覚えているのに、最近のことを覚えにくいという形で症状が始まることが多いのです。
日本の調査では、認知症の約7割がアルツハイマー型で、もっとも多いタイプです(朝田, 2013)。
高齢になるほど多くなりますが、65歳未満で始まる「若年性」の方もいます。働き盛りや子育て中に診断されることもあり、その場合の支えについては「相談先と関連ページ」でご紹介しています。
ご家族が「あれ?」と感じるのは、こんな場面が多いです。年齢によるもの忘れとの違いは、体験したこと自体を忘れること、そしてその変化が続いていることです。
「今日は何曜日?」「何時に出かけるの?」と、数分前に答えたことをまた聞く。
財布や鍵、通帳がいつも見つからない。冷蔵庫に同じものがいくつも入っている。
通院日や友人との約束を忘れる。言われても「聞いていない」と話す。
今日が何日か、何曜日かがはっきりしない。季節の感覚がずれることも。
得意だった料理の味つけが変わる、品数が減る、同じ献立が続く。
覚えていないことにも「そうそう」と話を合わせる。ご本人なりの気づかいでもあります。
好きだった趣味や外出をしなくなる。うつ病と区別がつきにくいこともあります。
こうしたサインに、ご本人がいちばん早く、ひそかに気づいて不安を抱えていることも少なくありません。「最近どう?」と、責めない形で声をかけてみてください。
アルツハイマー型認知症は、年単位でゆっくり進みます。段階の分け方はひとつの目安で、どのくらいの速さで進むかは人によって大きく違います。
もの忘れはあるけれど、日常生活はおおむね自分でこなせる段階。認知症の手前の状態で、この段階で気づけると、治療や準備の選択肢が広がります。
最近の出来事を忘れやすく、お金の管理や買い物、料理など、段取りの要ることに手助けが必要になってきます。身の回りのことはおおむね自分でできます。
着替えや入浴など、日常のことにも声かけや手助けが必要になります。下で紹介する行動・心理症状が出やすい時期です。
言葉でのやりとりが少なくなり、生活の多くの場面で介助が必要になります。歩くことや飲み込むことが難しくなることもあります。それでも、声の調子や手のぬくもりは伝わります。
まず日付や時刻があいまいになり、次に「ここがどこか」がわかりにくくなり、進むと身近な人がわかりにくくなることがあります。
これらは、ご本人の性格が変わったのではなく、不安や混乱から生まれる病気の症状です。環境や接し方の工夫、必要に応じた治療でやわらげられることが多い症状でもあります。
アルツハイマー型認知症は、ふつう何日かで急に悪くなる病気ではありません。急にぼんやりする、急に混乱が強くなったときは、からだの病気(感染症や脱水など)やお薬の影響のこともあります。様子を見続けず、主治医に相談してください。
認知症にはいくつかのタイプがあり、タイプによって気をつけたいことが変わります。色のついた列が、このページのアルツハイマー型です。
表は横にスクロールできます →
| アルツハイマー型 | 血管性 | レビー小体型 | 前頭側頭型 | |
|---|---|---|---|---|
| 日本での割合(※1) | 約7割 | 約2割 | 数%(※2) | 約1% |
| 最初に目立つこと | もの忘れ(新しいことを覚えにくい) | 意欲の低下、考えや動作のゆっくりさ | 幻視、日による調子の波、動きのぎこちなさ | 性格や行動の変化、言葉の障害 |
| 進み方 | ゆっくり少しずつ | 脳卒中のたびに段階的に(ゆっくり進むことも) | 良い日と悪い日の波がある | ゆっくり、行動の変化が先に目立つ |
| からだの症状 | 初期は少ない | 歩きにくさ、飲み込みにくさ、手足のまひ | 手のふるえ・こわばり、転倒、立ちくらみ、便秘 | 初期は少ない |
| 始まりやすい年代 | 高齢に多い(65歳未満もある) | 脳卒中の危険因子がある方に多い | 高齢に多い | 65歳未満での発症も多い |
※1 厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(朝田, 2013): アルツハイマー型67.6%、血管性19.5%、レビー小体型/認知症を伴うパーキンソン病4.3%、前頭側頭型1.0%
※2 レビー小体型は見逃されやすく、実際はもっと多いと考えられている
混合型(アルツハイマー型と血管性が重なるなど)も少なくありません。
ひとつの検査だけで決まるのではなく、いくつかの結果を組み合わせて判断します。
いつごろから、どんな場面で変化があったか。ふだんの様子を知るご家族のお話は、とても大切な情報です。気づいたことをメモしてお持ちください。
HDS-R(長谷川式認知症スケール)や MMSE などで、記憶や日付の感覚、計算などを確かめます。点数だけで診断が決まるわけではありません。
甲状腺の働きやビタミンなど、もの忘れの原因になるからだの状態がないかを調べます。
海馬の萎縮の程度を見たり、脳梗塞や出血など、ほかの原因がないかを確かめます。
脳のどの部分の血の流れが落ちているかを見て、タイプの見きわめに役立てます。
後で紹介する抗アミロイドβ抗体薬を検討する場合には、脳にアミロイドβがたまっていることを確認する必要があります。
もの忘れの中には、原因を治療するとよくなる可能性があるものもあります。たとえば、頭を打ったあとに脳の表面にゆっくり血がたまる慢性硬膜下血腫、脳の中の水の流れが滞る正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏などです。血液検査や画像検査は、こうした病気を見落とさないためにも行います。
今のところ、アルツハイマー型認知症を元どおりに治すお薬はありません。けれど、進行をゆるやかにするお薬と、お薬以外の工夫を組み合わせることで、ご本人らしい暮らしを長く保つことを目指せます。
| お薬の名前 | 特徴 |
|---|---|
| ドネペジル | 飲み薬。もっともよく使われています |
| ガランタミン | 飲み薬 |
| リバスチグミン | 貼り薬があり、飲み薬が苦手な方にも使えます |
| メマンチン | 飲み薬。ほかのお薬と組み合わせて使うこともあります |
進行をゆるやかにするお薬で、病気を治すお薬ではありません。「飲んでいるのに悪くなった」と感じることがあっても、お薬がなければもっと早く進んでいた可能性もあります。効き目には個人差があります。
副作用として、吐き気・食欲の低下や、イライラが出ることがあります。気になる変化があれば、自己判断でやめたり増やしたりせず、主治医に相談してください。お薬の個別情報
脳にたまったアミロイドβを取り除くように働くお薬です。レカネマブ(2023年承認)とドナネマブ(2024年承認)があります。
こちらも病気を治すお薬ではなく、進行をゆるやかにするお薬です。対象になるか、通院や検査の負担がご本人やご家族に合うかを含めて、主治医とよく話し合って決めていきます。関心がある場合は、診察でお気軽にたずねてください。
アルツハイマー型では、出来事は忘れても、そのときの「嫌な気持ち」や「うれしい気持ち」は残りやすいことがわかっています。この性質を味方にするのが、接し方の基本です。
否定したり説得したりすると、ご本人はますます不安になります。まず「それは困ったね」と気持ちを受け止めて、一緒に探しましょう。見つけたときは、ご本人が自分で見つけられるようにさりげなく誘導すると、「疑われた」「やっぱり盗られていた」というしこりが残りにくくなります。
「大変、一緒に探そう。いつもこのあたりに置いていたよね」ご本人にとっては、毎回がはじめての質問です。初めて聞かれたように、短く穏やかに答えましょう。予定はカレンダーやホワイトボード、メモに書いて、目に入る場所に置くと、ご本人が自分で確かめられます。
「病院は明日の朝だよ。カレンダーにも書いておいたからね」失敗を指摘されたつらさは、出来事を忘れても気持ちとして残ります。責めるより、さりげなく手伝って、終わったら「ありがとう」。ご本人の自尊心を守ることが、落ち着いた毎日につながります。
心配で何でも代わりにやってしまうと、役割や自信が失われ、かえって元気がなくなることがあります。洗濯物をたたむ、食器を拭く、花に水をやるなど、できることは取り上げずにお願いしましょう。手順を一つずつ区切ると、取り組みやすくなります。
「家に帰る」と言い出すときは、不安のあらわれのことが多いです。理由を否定せず、お茶を飲んだり、一緒に少し歩いたりして気持ちが切り替わるきっかけをつくってみましょう。部屋を早めに明るくするのも助けになります。
いつも理想どおりに接するのは、誰にとっても難しいことです。うまくいかない日があって当然です。介護サービスを使うこと、ほかの家族や専門職に頼ることは、ご本人のためでもあります。介護ガイドもご覧ください。
暮らしを守るために、早めに話し合っておきたいことです。ご本人の気持ちを大切にしながら、できる対策から始めましょう。
認知症があると、道を間違える、信号や標識の判断が遅れるなど、事故の危険が高まります。認知症と診断された場合は、法律上、運転を続けることはできません。軽度認知障害(MCI)の段階でも、運転について早めに主治医と相談してください。車は生活や誇りと結びついていることが多いので、移動手段の代わりを一緒に考えることも大切です。運転免許と病気のページ
鍋をかけたまま忘れる、たばこの火の消し忘れなどは、火事につながります。自動で火が消える機能のついたコンロや、火を使わない調理器具への切り替え、火災警報器の確認をおすすめします。
支払いの忘れや二重払い、通帳の紛失に加え、訪問販売や電話での詐欺にねらわれやすくなります。大きなお金の出し入れはご家族と一緒に行う、留守番電話を活用するなどの工夫を。お金や契約の管理を支える制度(日常生活自立支援事業や成年後見制度など)もあります。制度ガイド
飲んだことを忘れてもう一度飲んでしまうと、からだに負担がかかるお薬もあります。お薬カレンダーや、1回分ずつまとめる包装(一包化)を薬局で相談し、ご家族が確認できる形にしておくと安心です。
慣れた道でも迷ってしまうことがあります。自治体の見守りネットワーク(事前登録で、行方がわからなくなったときに地域で探す仕組み)への登録や、靴やかばんに入れる位置情報機器の活用を検討してください。服や持ち物に連絡先を書いておくのも役立ちます。行方がわからなくなったときは、ためらわずに早めに警察に相談してください。
65歳未満で発症した場合、仕事を続けるかどうか、家計、子育てなど、高齢での発症とは違う悩みが重なります。お子さんへの影響が心配なこともあるでしょう。
こうした悩みは、全国若年性認知症コールセンターで相談できます。職場との調整や経済的な支えとなる制度についても、ひとりで決めずに相談してください。制度ガイド
アルツハイマー型認知症は、年単位でゆっくり進む病気です。
だからこそ、今から準備し、工夫する時間があります。
お薬は治すものではありませんが、進行をゆるやかにできます。
そして、接し方や環境の工夫で、毎日の困りごとはやわらげられます。
出来事は忘れても、気持ちは残ります。
ご本人の安心を大切に、ご家族もひとりで抱えずに。
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