脳の血管を守ることが、
いちばんのケアになる認知症
「血管性認知症」と診断されたご本人、そしてご家族の方へ。突然の病名に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。
このページでは、脳で何が起きているのか、どんなふうに進むのか、そしてこれからできること(治療・ケア・制度)を順番にお伝えします。全部を一度に読まなくても大丈夫です。気になるところから、ゆっくり読んでください。
血管性認知症には、ほかのタイプにはない大切な特徴があります。それは、脳の血管を守る治療(再発予防)によって、悪くなるきっかけを減らせるということです。
脳は、血液が運んでくる酸素と栄養で働いています。脳梗塞(血管がつまる)や脳出血(血管が破れる)が起こると、その先の脳に血液が届かなくなり、その部分の働きが落ちます。これが、考える力や意欲などに影響したものが血管性認知症です。
そのため、「脳卒中を起こした覚えはないのに」と驚かれるご家族も少なくありません。
日本の調査では、認知症の約2割が血管性認知症で、アルツハイマー型に次いで多いタイプです(朝田, 2013)。
始まる年齢が決まっているというより、脳卒中の危険因子がある方に多いのが特徴です。危険因子には次のようなものがあります。
これらは治療や生活の工夫で管理できるものです。ここに、この病気と向き合うための大きな手がかりがあります。
高齢の方では、脳の血管の病気とアルツハイマー型の変化が同時に起きている「混合型」も少なくありません。その場合は、両方の視点から治療やケアを考えていきます。
血管性認知症では、もの忘れよりも先に、元気のなさや動きのゆっくりさが目につくことがよくあります。ご家族が気づきやすい場面の例です。
好きだった趣味や外出に誘っても「いい」と言う。一日じゅう座っていることが増えた。
返事が返ってくるまでに時間がかかる。着替えや食事に前よりずっと時間がかかる。
昔の話はしっかりできるのに、簡単な段取りができない。「まだら」にできなくなる。
ちょっとしたことで泣き出す、場にそぐわず笑ってしまう。本人も止められない様子。
すり足で歩幅が小さくなり、つまずきやすい。転ぶことが増えた。
食事や飲み物でむせる。ろれつが回りにくく、言葉が聞き取りにくい。
夜中に何度もトイレに起きる。間に合わずにもらしてしまうことがある。
日中は落ち着いているのに、夜になると場所がわからなくなったり、落ち着かなくなったりする。
「年のせい」「気持ちが落ち込んでいるだけ」と思われやすい変化ですが、脳卒中のあとにこうした変化が続く場合は、一度主治医に伝えてみてください。
脳卒中が起こるたびに、ガクンと一段悪くなり、そのあとしばらくは同じくらいの状態が続く——という経過をとることが多いのが特徴です。
赤茶の線:段階的な変化 / 点線:ゆっくり進むこともある(イメージです)
脳卒中のたびに一段ずつ変化します。再発を防げれば、次の「一段」を起こりにくくできるということでもあります。
小さな血管の病変(白質病変など)が中心の場合は、はっきりした段差がなく、少しずつ進むこともあります。
傷ついた場所とそうでない場所があるため、できることとできないことの差が大きいのが特徴です。判断力や人柄はしっかり保たれていることも多くあります。
できる日とできない日があったり、夜になると混乱しやすくなったりします。
どのくらいの速さで、どう変化していくかは、脳のどこがどのくらい傷ついたか、危険因子の管理ができているかなどによって大きく変わります。リハビリで、できることが戻る場合もあります。
主な4つのタイプを並べました。このページの「血管性」の列に色をつけています。
表は横にスクロールできます →
| アルツハイマー型 | 血管性 | レビー小体型 | 前頭側頭型 | |
|---|---|---|---|---|
| 日本での割合(※1) | 約7割 | 約2割 | 数%(※2) | 約1% |
| 最初に目立つこと | もの忘れ(新しいことを覚えにくい) | 意欲の低下、考えや動作のゆっくりさ | 幻視、日による調子の波、動きのぎこちなさ | 性格や行動の変化、言葉の障害 |
| 進み方 | ゆっくり少しずつ | 脳卒中のたびに段階的に(ゆっくり進むことも) | 良い日と悪い日の波がある | ゆっくり、行動の変化が先に目立つ |
| からだの症状 | 初期は少ない | 歩きにくさ、飲み込みにくさ、手足のまひ | 手のふるえ・こわばり、転倒、立ちくらみ、便秘 | 初期は少ない |
| 始まりやすい年代 | 高齢に多い(65歳未満もある) | 脳卒中の危険因子がある方に多い | 高齢に多い | 65歳未満での発症も多い |
※1 厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(朝田, 2013):アルツハイマー型67.6%、血管性19.5%、レビー小体型/認知症を伴うパーキンソン病4.3%、前頭側頭型1.0%
※2 レビー小体型は見逃されやすく、実際はもっと多いと考えられています
混合型(アルツハイマー型と血管性が重なるなど)も少なくありません。
いつから、どんな変化があったか。脳卒中を起こしたことがあるか、急に悪くなった時期があったか。ご家族からのお話がとても役立ちます。
質問に答えたり、簡単な作業をしたりして、記憶・注意・段取りなどの力を確かめます(HDS-R、MMSE など)。
歩き方、手足の力やまひ、話し方、飲み込みなどを診察し、脳のどこに影響が出ているかを確かめます。
脳梗塞や脳出血のあと、小さな脳梗塞、白質病変がないかを調べます。血管性認知症の診断でとくに大切な検査です。
血圧・血糖・脂質(コレステロールなど)の検査、心電図(心房細動などの不整脈の確認)で、再発につながる原因を調べます。
認知症のような症状があっても、別の病気が原因で、治療によってよくなる場合があります。たとえば、頭をぶつけたあとに脳の表面に血がたまる慢性硬膜下血腫、脳の中の水がうまく流れなくなる正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏などです。血液検査や画像検査は、こうした病気を見逃さないためにも行います。
血管性認知症は、脳卒中が重なるたびに悪くなりやすい病気です。だからこそ、次の脳卒中を防ぐことが、治療の中心になります。
かかりつけの内科や脳神経の主治医と連携しながら進めていきます。
再発を防ぐための大切なお薬なので、自己判断で飲むのをやめないでください(やめると脳梗塞が起こりやすくなることがあります)。出血しやすくなるお薬でもあるため、ほかの病院や歯科を受診するときは、飲んでいることを必ず伝えてください。飲み忘れや飲み過ぎを防ぐために、お薬カレンダーや一包化(1回分ずつまとめる)も役立ちます。
アルツハイマー型認知症に使われるお薬は、血管性認知症そのものには基本的に使われません。ただし、アルツハイマー型と重なる混合型と考えられる場合には、使われることがあります。
「認知症のお薬が出ていない=何もしていない」わけではありません。再発予防のお薬こそが、この病気の大切な治療です。
血管性認知症では、意欲の低下やうつ症状を伴いやすいことがわかっています。気分の落ち込みや不安、眠れなさが強いときは、お薬を含めた治療でやわらぐことがあります。「元気がない」も治療の対象ですので、診察で伝えてください。
歩く・話す・飲み込むなど、からだの機能を保ったり取り戻したりするための訓練です。介護保険のデイケア(通所リハビリ)や訪問リハビリでも受けられます。
デイサービスなどで人と話す、簡単な役割をもつことは、意欲や生活のリズムを保つ助けになります。
朝起きて日光を浴び、日中に体を動かすことは、夜の混乱や睡眠の乱れを防ぐことにもつながります。高齢者の睡眠ケア
よくある場面と、試してみてほしい対応の例です。うまくいかない日があっても大丈夫。できそうなものから取り入れてみてください。
次のような変化が急にあらわれたときは、様子を見ずに、ためらわず救急車を呼んでください。
脳卒中の治療は時間との勝負です。「夜だから朝まで待とう」「少し休めば治るかも」と待たないでください。症状に気づいた時刻を伝えると、治療の判断に役立ちます。
救急は 119飲み込みにくさがあると、食べ物や唾液が気管に入り、肺炎を起こすことがあります。食事は姿勢を整えて、ゆっくり、ひと口を少なめに。むせが増えた、食後に咳や痰が続く、熱が出た、というときは早めに受診してください。歯みがきなど口の中を清潔に保つことも予防になります。
小刻みな歩き方や手足のまひがあると転びやすくなります。段差をなくす、手すりをつける、夜の足元を明るくする、滑りにくい履き物を選ぶなどの工夫を。血をさらさらにするお薬を飲んでいる方が頭を打ったときは、あとから出血が出てくることもあるので、主治医に相談してください。
夜のトイレは転倒のきっかけにもなります。トイレまでの動線を明るく安全に。認知症と頻尿・トイレの悩み
再発予防のお薬を続けられるよう、ご家族が確認したり、訪問薬剤師のサービスを使ったりするのもひとつの方法です。お薬の個別情報
判断や反応のゆっくりさ、手足のまひは運転に影響します。主治医と相談してください。運転免許について
連絡先は、お住まいの市区町村のホームページや広報誌などでご確認ください。
血管性認知症は、脳の血管の病気から起こる認知症です。
脳卒中のたびに段階的に変化しやすく、
できることとできないことが「まだら」になります。
元気のなさや涙もろさは、怠けや気の弱さではなく、病気の症状です。
血圧・血糖・脂質の管理と禁煙で、
次の脳卒中を防ぐことが、いちばんの治療になります。
そして、急に悪くなったら、ためらわず救急車を。